ぞめき。今の世の中では全くと言っていいほど使いませんねえ。遊郭などで遊ばないでひやかしに歩くことを言うようです。江戸落語です。
さて、この噺の主人公は、大店の若旦那。せっせ、せっせと夜分に吉原に通うのを見かねた番頭が若旦那へ、、、
番頭 "それなら女を身請けしてどこぞへ置いといて、それで内緒で昼間逢ったらどうです"。
若旦那"おれァね、あの吉原の気分てぇものが好きなんだ。"
番頭 "するとあなた何ですか。ただひやかしているのが好きなんですか。"
若旦那"そう。だから女を連れてきたっていけねぇんだ。吉原を家に持ってきてくれりゃ
でかけねぇ。"
ということで、お店の二階に吉原を作ってもらって二階でひやかすことになりました(へんな話)。
若旦那、わざわざ着替えて、ほっかぶりまでして、二階へ行きますと、流石腕のいい棟梁に頼んだだけあって、若旦那の喜ぶまいことか。
この後は、若旦那の妄想の世界が繰り広げられ("湯や番"など落語ではよくありますねえ)、挙げ句は、仮想の"店の若い者"と取っ組み合いのドスン・バタンの喧嘩を始めます。
階下では旦那、"あのバカ。おい、定や、定吉。二階へ行って、倅にそういいな、エエッ、大きな声出すんじゃねって"、と定吉を二階へ行かせます。、、、、、、、、、
木造家屋でドスン、バタン。住宅の性能評価には"軽量床衝撃音"と"重量床衝撃音"があります。軽量床衝撃音は、タッピングマシンを使って測定します。その名のとおり、靴音(タップ)のカタコト、カタコトのような衝撃を想定しています。一方、重量床衝撃音は、タイヤを使って測定します。子供が椅子から飛び降りたときを想定しているようです。"二階ぞめき"のドスン、バタンは重量床衝撃音になります。
コンクリート造のマンションのような建築仕様では、軽量床衝撃音・重量床衝撃音が指示されていて、竣工検査で床衝撃音を測定・評価することがあります。また、衝撃音の予測方法の研究も進んでいます。
日本建築学会の基準では下記のようになっています。
表A.2 床衝撃音レベルに関する適用等級
建築物 |
室用途 |
部位 |
衝撃音 |
適用等級 |
特級 |
1級 |
2級 |
3級 |
集合住宅 |
居室 |
隣戸間界床 |
重量衝撃音 |
L-45 |
L-50 |
L-55 |
L-60,L-65* |
軽量衝撃音 |
L-40 |
L-45 |
L-55 |
L-60 |
ホ テ ル |
客室 |
客室間界床 |
重量衝撃音 |
L-45 |
L-50 |
L-55 |
L-60 |
軽量衝撃音 |
L-40 |
L-45 |
L-50 |
L-55 |
学 校 |
普通教室 |
教室間界床 |
重量衝撃音 |
L-50 |
L-55 |
L-60 |
L-65 |
軽量衝撃音 |
*木造、軽量鉄骨造またはこれに類する構造の集合住宅に適用する。
表A.4 適用等級の意味
適用等級 |
遮音性能の水準 |
性能水準の説明 |
特 級 |
遮音性能上とくにすぐれている |
特別に高い性能が要求された場合の性能水準 |
1 級 |
遮音性能上すぐれている |
建築学会が推奨する好ましい性能水準 |
2 級 |
遮音性能上標準的である |
一般的な性能水準 |
3 級 |
遮音性能上やや劣る |
やむを得ない場合に許容される性能水準 |
私たちの会社では、床衝撃音・戸境の遮音性能等の音響測定を行っています。マンション竣工検査に伴う測定がほとんどです。
一般に、軽量床衝撃音の性能は床表面の素材に大きな影響をうけます。床を絨毯からフローリングに変えたら階下から苦情が出た、ということも起こります。
重量床衝撃音は床の剛性、剛性と関連した床の重さに大きな影響をうけます。すなわち、重量床衝撃音の性能は構造上、コンクリート造建物よりどうしても木造家屋では悪くなります。
ただ、木造家屋は一階と二階が同一世帯ということが多く、多少性能が悪くとも、実生活では、(二階の子供に対し)"うるさい"と言えばよく、問題が顕在化しないことが多いようです。
ですから、木造家屋の竣工検査もほとんどないのですが、最近木造家屋の重量床衝撃音を測定する機会がありました。L-65等級でした。表では3級です。しかし、3級にするのが現場では大変だったようです。
私の家は木造三階建て・建築後10年弱です。設計士さんは阪神淡路大震災のときに西宮在住の方で、過剰設計と思われるほど耐震設計に随分気を遣って頂きました。
では、私の家の重量床衝撃音の性能はどれほどか?。きっと、自慢できるぐらいに違いない。ちょっと、測ってみよう。と"二階・長男の部屋(洋室6畳)"から"一階・客室(和室4.5畳+押入・床の間)"に対し測定しました。その結果は、L-70です。あれっ、3級にもなりません、ガックリ。
実際には一階にいて二階のドスン、バタンが気になりません。今春高校を卒業した長男も、いつのまにかドスン、バタンをしなくなったんですねえ。当たり前か。
木造家屋の重量床衝撃音の性能がL-65を満足させることは難しいことがわかった次第です。
参考、1)滝田ゆう、滝田ゆう落語劇場、ちくま文庫(1988年)
2)日本建築学会編、"建築物の遮音性能基準と設計指針"、(技報堂、1997年)
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