東京では引越の夢とも。
口入屋(くちいれや)。今の人材派遣会社でしょうか。仕事の世話をするところです。
ある布屋(古着屋)さんから「女中(おなごし)さんを一人世話して欲しい」と丁稚がやって来ます。「店には若い男が大勢居るのできれいな人が来たらもめてうるさいさかいになるべく不細工な人を」という布屋の奥さんがいいつけたのを、番頭が丁稚に小遣いを与えて口入屋からきれいな女中さんを連れて帰ってきます。噺の前半はこの女中さんを相手に番頭が「この店は給金は安いが私が帳面をドガチャガドガチャガドガチャガとしてやるから任しとき。そのかわり、夜中に寝ぼけるという癖があるんや。手水(便所)へ行た帰りなんかな、間違うて人の寝間に入るてなことがあるんや。、、、、。魚心あれば水心、」と言ってる間に目の前の女性がいつの間にやら二番番頭の杢兵衛(もくべえ)に入れ替わっていて「わたいもドガチャガドガチャガ、、」。
おなごしさん、この後奥の挨拶も済み、今晩からこの店に泊まることが店の者にわかりますと、、番頭の一存で、さっさと店を閉めてしまいます。、(中略)。
宵の内はわあわあ言うてますが、昼間の疲れというやつで、グーとみんな寝静まってしまいます。一番先に目をさますのが杢兵衛で、「アーアー」とあくびをしたときに、ボーンと寺の鐘が響きます。
そう、これから噺の後半。番頭たちの暗躍?の場に舞台は廻っていきます。
寺の鐘、実際に下座で打つのはドラのようですが、大阪の噺には鐘の音で夜の場面転換に用いることがしばしばあります。夜間に京都から大阪へ淀川を下る情景を物語る「三十石夢の通い路」もそうです。
さて、寺の鐘すなわち梵鐘についての研究ですが私の知るところでは騒音計等を製造しているリオンに勤めておられた大熊恒靖氏の研究があります。主な発表の場が日本音響学会のなかの音楽音響研究会ではなく、騒音・振動研究会であるところは勤務先の関係かと思います。
大熊さんの研究によりますと、減衰時間(建築音響でいう残響時間)の観点から見ますと和鐘と古い中国の鐘(1500年前後)の比較をしますと次表のように中国の鐘が一番長いようです。鐘は大きいほど減衰時間は長いのですが、中国の鐘が大きいのかと言うとそうではありません。鐘の減衰時間には大きさ以外にも鋳造技術、厚さ、形状が関係しているのですがはっきりしたことはわかっていません。
日本に限って言うと奈良・平安から鎌倉・南北朝になると一旦減衰時間が短くなるのですが、室町以降長くなる傾向にあります。鐘を撞く周期をみると早く減衰すると次の鐘を撞く時間も短くなり、南北朝以前にできた鐘は昭和以降の鐘に比べ鐘を撞く周期は倍になっています。
時代 |
減衰時間の平均(秒) |
鐘を撞く周期(秒) |
奈良・平安
鎌倉・南北朝
室町・江戸
明治・大正
昭和・平成 |
56
23
44
61
90 |
16
16
23
不明
31 |
中国古鐘 |
131 |
不明 |
参考、1)米朝落語全集第3巻(創元社、昭和56年)
2)大熊恒靖、梵鐘の音響特性(3)、騒音・振動研究会資料1995年他
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